ソレイユの用意したドレスは、どれも上品で美しい物ばかりだった。装飾過多で派手な装いを好む赤の王とは違い、控えめで威圧感がない。眺めていても安心できるようなものばかりだった。
ルミエールは悩んだ末、ソレイユが一番気に入っているドレスを着る事にした。
そして式典を無事に終えるとルミエールは安心したように息を吐く。
父が用意したドレスを着ていた頃はいつも空気が重かった。高圧的な装いに民の表情が強張っていたのをルミエールは記憶している。
だけど今日は違う。緊張はしたけれど、空気が軽く感じた。
ルミエールは自分の部屋に戻ると、心の中でソレイユに感謝した。
赤の民の声は黒の国に届いただろうか、あの日のブラン王子のように慕われるような姫になれているのだろうか。
ルミエールは式典の事を思い起こしては小さい溜め息を付いた。
真新しいドレス、輝かしい装飾品、それらで着飾るだけの人形にはなりたくない。心に気品や気高さを持ちたいと彼女はそう思った。
「あら?」
ルミエールの視線の先にはソレイユが用意した数着のドレス。その中に、彼が用意したとは思えないドレスが混じっていた。
「ソレイユ、こんなドレスを用意していたかしら……」
装飾過多でギラギラと輝く純白のドレス。式典の前にこのような派手な装いのドレスを見た覚えがなかった。
ルミエールは訝しげにそのドレスを見つめた。
「まるでウェディングドレスみたいだし……」
見つめていた所で何かあるわけでもない、しかしルミエールはそのドレスに不安を覚えずにはいられなかった。
しばらくすると、扉をノックする音が聞こえた。いつもと変わりない間隔で叩かれたその音に、ルミエールは安堵する。
「入ってきて、ソレイユ」
「失礼します、姉う……何ですかそのドレス」
部屋に入って早々、ソレイユは怪訝そうにドレスを見つめた。
彼の様子にこのドレスを用意したのがソレイユではない事をルミエールは確信した。
「やっぱり、貴方じゃないのね」
「当然です、そんな悪趣味な装飾……」
ソレイユは不愉快そうに顔を歪めた。
「大体何故、姉上にウェディングドレスを用意しなければいけないのですか」
少し拗ねたような様子でそう告げると、そのドレスを放り投げた。
「用意してくれないの?」
「っ、今は、不要でしょう……」
ソレイユはそう弁解すると、少し唇を噛んだ。
その様子を不思議そうに眺めるルミエールを見て、彼は咳払いをする。
「それより、そろそろ行かなくていいのですか?」
ルミエールは「え?」と窓の外を見る。すると暗闇が支配する夜になっていた。
「大変!」
ソレイユは彼女の慌てふためく様子に少し呆れたような態度を取ったが、すぐ微笑んだ。少しだけ寂しさを滲ませて。
しかし慌てすぎたルミエールはあまりにも不恰好で、それを見かねたソレイユは彼女の髪に触れる。
「ほら、ちゃんと髪を隠さないと、……これでいい」
彼女の格好を手直しすると、満足そうに微笑んだ。
「ありがとうソレイユ」
「どういたしまして、弟である事の特権ですから」
ルミエールは首を傾げる。
「お帰りになられる頃に、近くまでお迎えにあがります」
しかしソレイユは追求する事を許さず、いつも通りの笑顔を彼女に向けた。
...2012.05.15