記憶の花:14.アザレア

 学校のすぐ近くに降ろしてもらい、僕は深々とお辞儀した。店長に会わなかったら日付を越えていただろう。
 店長は手をヒラヒラとして見せると「儚ちゃんによろしくな」と言って帰っていった。
 それを見送り、後ろを振り返る。そして儚と出会ったあの学校を見上げた。屋上のフェンスは一箇所無くなったままで、僕の体験したあの出来事が事実であると物語っている。喉の奥から何かがこみ上げてきそうになるのを必死の堪え、僕は校内へ一歩踏み出した。
 儚が落下した所には彼女が流したと思われる血がまだ残っている。見ているだけで彼女の痛々しい姿が脳裏をよぎり、僕は目を伏せた。
 鍵を閉め忘れたのか、校舎内にはいとも簡単に入れてしまった。
「ごめんなさい、失礼します……」
 僕は小さな声で謝罪すると、屋上を目指して階段を昇る。そこに儚がいると、何故かそう確信していた。
 階段は思っていた以上に重労働で、踊り場に辿り付く度肩で息をしていた。出会った日のように駆け上がれたら良かったが、今の僕の身体では無理だった。
 屋上へ続く階段は立ち入り禁止とテープが貼られていた。それを剥がしながら進むしかないと一歩前へ進むと、テープは僕を避けるように道を作る。それを見て僕は呼ばれていると感じた。
 屋上の扉にも鍵がかけられていたが、ドアノブに手を伸ばす前にカチャッと音がし、勝手に開いた。
 僕はゴクッと唾を飲み込むと、その扉を開いた。
 屋上に踏み出すと、儚は自分が落下したであろう場所に座り、足をブラブラと揺らしていた。
「儚ちゃん……」
 僕は名前を呼んだ。
「お父さんとお母さんが、ごめんなさい」
 儚は謝罪するが振り返る事はせず、その場に立ち上がった。
 僕は咄嗟に手を伸ばすが、彼女が困ったような笑顔でこちらを振り返るのを見て、言葉がでなかった。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい」
 僕は首を横に振った。
 儚はスカートの裾をぎゅっと掴み、何かを堪えるように唇を噛んだ。しかし耐え切れなかった彼女の目はポロポロと大粒の涙を流した。
「……折角助けてくれたのに、一ヶ月しか生きられなくて、ごめんなさいっ」
 たまらなくなって僕は彼女の傍に寄ると、その小さな肩を強く抱きしめた。
 儚は涙を流したまま僕の背に腕を回す。感じない温もり、感じない涙、それでも彼女は僕の腕の中にいた。
 僕の腕の中、儚は虚ろな瞳を伏せ僕の胸に耳を当てた。色んな感情がない交ぜになって、早い鼓動。生きている証。
「明さんは、生きてる……」
 小さく呟いた儚の言葉に僕は心臓が跳ねた。分かっている筈なのに、彼女の口から今の僕らの違いを聞くのは辛い。
 儚は当てていた耳をはなすと、無表情のままそこを見つめた。口をパクパクと動かすが声にする事を躊躇う。
「ん?」
 僕は出来る限り優しく微笑んだ。
 それを聞いた儚は一回口を閉じ、間をあけた。そして表情を作る事はせずに僕に告げる。
「……私が、一人は寂しいって言ったら、どうしますか?」
 それを聞いた僕は大きく目を開き彼女を見た。表情が伺えず彼女の真意がわからない。僕は僕の気持ち一つで答える事を要求された。
「……追いかけようか?」
 彼女の求めている答えは判っているつもりだ。だけど、試すような事を言われて思わずこう答えていた。
 儚は僕を突き放すとボロボロ涙を零し、睨むように僕を見た。
「私の知っている明さんは、自分の正しさを持っているもの!そんな事考えない!」
 怒る儚に僕は困ったように微笑んだ。
 彼女が置いていった一枚目の花は『ルドベキア』。明るい雰囲気で反らした花びらが目立つキク科の花。別名『あらげはんごんそう』。花言葉は『正義』。
 僕に合うと言われてまた揉めたが、結局自分の正しいを信じて過ごしてはいると、僕が折れる結果になった。
 だから彼女の求める答えも、僕が出す答えも同じだ。色んな人が僕の為に動いてくれた。助けてくれた。助けられた命を粗末にするなど、僕には考えられない選択肢だ。色々な人の気持ちを無駄にする事など僕にはできない。
「うん……それを選んだら、僕は僕じゃなくなってしまうから」
 僕は申し訳なく答えた。
 だけど儚はそれでいいと言うように頷く。何かを堪えるように唇を噛む姿が辛かった。もうすぐいなくなる彼女を思うと、僕は自分の正しいと思うものを貫ける自信がなくなっていく。悲しみが憎しみに変化して僕を支配する。
「ご両親に、証言を頼まれたよ……無念を晴らしてくれって」
 それを聞いた儚の表情が暗くなる。
 二枚目の花は『りんどう』。草や花が霜枯れているときでも青紫色あざやかに咲く姿が美しい花。花言葉は『悲しみにくれるあなた』。
 当時はただ綺麗な花だという理由で話に上ったに過ぎない。まさか後になって、自分の気持ちに代わるなど、あの時の自分は想像もしていなかった。
 この事を告げるつもりはなかったはずなのに、どうしたらいいかわからなくて、僕は儚にこの事実を告げた。
「あれは、彼女達に、突き飛ばされたから落ちた……」
 全てを見ていたのは僕だけ、つまり僕の発言一つで、儚を死に至らしめた二人の処罰が決まる。僕が少し言い方を変えるだけで、儚の無念が晴らせるかもしれないのだ。
「……明さん」
 儚はまた戸惑ったように悲しい顔をした。
 憎しみが重たすぎて、僕の中の善悪の天秤がグラグラと揺れ、自分を見失わせている。こんな事をしても、儚は喜ばない。だけど自分だけではどうにもならない。
「儚ちゃんは、今でも仕返ししたい……?」
 僕は答えも、自分が彼女に返す言葉もわかっているのに聞いた。
 儚は首を横に振ると、真っ直ぐな目で僕を見た。
「あれは事故です。突き飛ばされたのは事実だけど……彼女達はフェンスが壊れかかっているのを知らなかった」
 僕は胸に手を当て「事故……」と復唱した。
「二人は、落ちそうな私に、手を差し伸べてくれた……助けようとしてくれた」
 確かにその瞬間、女学生が身を乗り出していた。鮮明に思い出そうとすればするほど、彼女達が儚に手を差し伸べたのは事実だとわかり、何も言えない。
「二人を許せるわけじゃないけど、相応以上の罪を負って欲しくはないです」
 儚はそう言うと、絵を持っている方の僕の手を取った。そして三枚目の花の絵を取り僕の目の前に大きく広げた。
 三枚目の花は『ひめゆり』。上向きに咲く小ぶりの花で、花びらは先端がとがりすっきりとしていて、色は橙や黄の澄んだ色合い、『誇り』という花言葉に相応しい装いの花。
「酷いな……儚ちゃんは」
 僕は苦笑しながら答えた。かつて自分がやろうとした事を、僕には絶対させようとしない。それをすれば僕は僕じゃないから。
「そんな明さんが誇りです」
 そう言うと儚は涙目のまま満足そうに微笑む。人の言動に振り回されている自分など、誇れるような人間ではないのに、またその言葉で僕に嬉しいと思わせる。
「ありがとう」
 僕はまた苦笑した。

 星が見守る屋上で、今手元にある残り二枚の絵を二人で見た。
 四枚目の花は『ノースポール』。別名『バルドサム』『クリサンセマム』、正式名称は『クリサンセマム・バルドーサム』。マーガレットに似ている小さい白い花で、上品で可憐。
「花言葉は『誠実』、明さんです」
 儚はすぐ隣に座り、絵と僕を交互に見ながら笑顔で言う。
 僕はまた「それはない」と拒否しながら呆れたように苦笑する。
「真面目というよりは生真面目ってよく言われるし……」
 大学の友人達に毎日のように投げかけられる言葉を冷めた目で答える。すると儚は恒例の頑なさで「明さんです」と切り返す。
 それを聞いて少し溜め息を付く。だけど最後まで自分自身であり続ける儚を誇らしくも思えた。こういう儚だから、僕は惹かれたのだ。
「……褒め言葉だからありがたく受け取る事にします」
 僕は決して認める事はせず、そう言ってくれる事に感謝する事にした。僕自身も頑固だからどちらかが引かなければ一生終わらない。一応年上として、自分が折れるのが一番なのも理解していた。
 儚はいつも通り満足そうな顔をすると、ニコニコと身体を左右に揺らした。
「子供だなー」
「何か言いました?」
 僕の小さな独り言にジト目で振り返る儚に「いいえ何も」と妙な笑顔を貼り付けて返し、手元にある最後の花の絵を見た。
 絵は大きな丸で一瞬驚いたが、それは二千個の小さい花が集まり直径二十センチの巨大な紫色の球のような花姿の『アリウム』。別名『はなねぎ』というだけあり葉をちぎると葱のような匂いがする。
 その絵を横から眺めていた儚は悲しげに顔を歪め、膝を抱えた。
「……どうしたの?」
 僕は心配になって顔を覗きこむ。
 アリウムの花言葉は『深い悲しみ』だ。今ここにある最後の絵だから辛くなってしまったのだろうか、もしそうなら僕に何ができるだろう。
「……どうしても一枚見つからないの」
 儚は涙を堪えるように唇を噛んだ。
 震えている儚を見て、僕はその手をそっと握る。
「私の気持ちだけ……見つからない」
 そこまで絞りだすと儚はまた泣き出した。
 僕はその震える肩を抱きしめる。
「もう見つからなくてもいいから……、僕、言ったよね?」
 まだ記憶を完全に取り戻す前、わからない言葉を並べながら隠していた気持ちを伝えた。これはきっと見つからない一枚の事を指していたのだろう。
「でも、全部明さんに持っていて欲しかった……っ」
 困らせまいと儚は何度も手で涙を拭うけど、涙を止める事ができない。最後には本音を零した。
「儚ちゃん……」
 僕は諦めるようには言えなかった。あれは僕のそうだったらいいなという願望で、花言葉を知って儚も同じように感じてくれたら嬉しいとだけ伝え、花言葉を伏せていた。八月の最後の日にダイヤモンドリリーの花言葉に添えて。
「探そうか、『アザレア』の絵」
 立ち上がろうとしてよろけた僕を儚は支えると、僕の言葉に目を丸くした。そしてまた唇を噛み小さく頷く。
 それを見て僕は微笑むと、手を差し出す。意味を悟った儚は少し赤くなりながら自らの手を重ねた。
「でも、アザレアではなくて、『白いアザレア』です……」
 赤いアザレアの花言葉は『節制』、白いアザレアとは違う。それを拗ねる儚に僕は苦笑した。
「まあまあ、とりあえず校庭に行こう?」
 儚は腑に落ちないという様子で「……どうして?」と問う。
「儚ちゃん、あの辺りは調べてないんでしょ?」
 僕は言い難くて少し顔が悲しみに歪んだ。
 儚は「そんな事は……」と言いかけるが、すぐ頷いた。
「今日は僕も一緒だから、行けるよね」
 僕も本当は行きたくない場所だ。だけどこれだけ探して見つからないのなら、その辺りにある花壇が怪しいと思う。
 だから僕は儚の手を取り、二人で、二人が死に別れたあの場所へ向かった。

 先程目を伏せた所を横目に花壇に近付こうとすると、儚はその場に立ち止まった。
 振り返ると儚の顔色はすごく悪く、相当この場所が恐ろしいのだとわかる。
「ここで待ってる?」
 僕はゆっくり屈み彼女の顔を覗きながら言った。
 儚はあまりの恐怖にただ目で訴える。
 僕はここで待つという事かと思い「見てくるね?」と手を離そうとした。
「……っ、一緒に」
 儚は離れた手をすぐに掴み潤む瞳で僕を見上げながら言った。
「ん、わかった」
 僕は頭を撫でられない代わりにできる限りの笑みを浮かべた。
 彼女の手を引き、花壇の前に来ると僕は膝をつき松葉杖を置いて掘り返してみた。繋いだ手は離さない。
 儚も同じようにその場にしゃがむと、空いた左手で花壇を掘り返し始めた。
 花が咲いているから全体を掘り返す事はできない。花の根を掘り返さないよう慎重に、花のない所に埋められている事を願いながら探した。
 少しずつ暗闇が明るくなってきた頃、儚の動きが止まった。もしかしたら日の光を恐れているのかもしれない。
「日陰に行く?」
 そう聞くと、儚は首を横に振るが、潤んだ瞳は相当苦しそうだ。
 それに彼女の身体が微かに透けて見えたのを僕は見逃さなかった。日の光の下では活動できないのか、それとも彼女がこの世に留まれなくなったのか、それはわからない。だけど急がなければいけない、そう心が訴えた。
 儚の手を強く握り、最後の土をどけた。
「あ……」
 僕は思わず声をあげた。微かにビニールのようなものが見え、ビニールの端と端を儚とそれぞれ持ち同時に引き出した。
「あった……」
 儚は自分の描いた白いアザレアの絵を見て安心したのか、我慢していた涙を解放した。
 見つけた絵は花びらがやわらかく波打つ八重咲きの白い花。日本でいうつつじを改良して作られたその花の別名は『オランダつつじ』。
「綺麗な絵……」
 僕は思わずそう呟いた。儚の絵はどれも綺麗で優しい。だけどこの白いアザレアの絵は、中でも特別美しく見えた。これだけビニール包んであったのは、彼女達もこの絵を綺麗だと思ったからかもしれない。そう考えれば、僕がしなければいけない事にも耐えられるような気がした。
「儚ちゃん、花言葉」
 手の土を服で拭い、泣きじゃくる儚の耳元で囁くと、儚は顔をあげ今できる一番の笑みを浮かべた。
 僕も今できる限りの笑みを浮かべる、彼女に涙を見せない為に。
 どちらともなく顔を見合わせ、何かの合図をするようにお互い頷いた。
「『あなたに愛されて幸せ』」
 答え合わせをするように声が重なる。
 儚は「私も同じです」と涙で濡れた笑顔で答えた。
「ありがとう……」
 僕は今にも涙しそうな苦しい笑顔で御礼を言う、それ以外に彼女にかけられる言葉が思いつかなかった。
「私の方こそ、一緒にいてくれてありがとうございました」
 日が昇り、儚の姿はドンドン薄れてく。
 僕は最後にまた儚を引き寄せる。そして彼女の唇に愛情の口付けをした。
「さよなら……儚、『また会う日まで』」
 割り切れない気持ちを捨て行動に表すと、彼女は嬉しそうに微笑み、光に溶けるように消えた。




 目が覚めた僕は、天井をぼんやりと見つめながら考えていた。
「病院……?」
 どうやって、ここに戻ってきたのだろう。見送った後の事を覚えていない。
 僕はとりあえず起き上がると、キョロキョロと辺りを見回した。そしてある物を見つけ点滴をしている腕を伸ばした。沢山絵が挟まったファイルだ。その一番上には綺麗な白いアザレアの絵があって、あの出来事は夢ではない事を悟った。
「夜長、起きてっか?」
 絵を眺めていると、油菜店長がゆっくりドアを開け病室の中を覗いた。
「店長!」
 僕が返事をすると店長は安心したように中へ入ってきて、盛大に溜め息をついた。
 僕は首を傾げる。
「心配で迎えに行ったらお前倒れてっから!全身がゾアアアッてしたぞ!」
 店長は僕の両頬をプレスすると、自分の体験した恐怖を全身全霊で僕に伝えた。
「こっこめんらはーいっ」
 頬を開放され、もう一度改めて謝罪した。店長にまで迷惑を掛けてしまったのは誤算だった。
 それに今日は両親が来るだろう。悪い事はした、だけどどうしても譲れなかった。それをどう父に伝えればいいかわからないでいた。
 すると病室の扉がノックされ、担当医が姿を現した。
「先生……それに、母さんと父さんも」
 僕は声が竦んだ。
 店長は母に呼び向き直り、「明君を雇わせていただいております」などと挨拶をしているが、担当医と父は真っ直ぐこちらに向かってきた。
「どうして病院を抜け出したりしたのですか」
 担当医は心底心配したという様子で僕に言った。
「すみません……」
 僕は幽霊の儚にお別れを言いに行ったとは言えずただ謝罪した。
「何だか久々に花が見たくなったみたいで、店の前に倒れていたんです」
 何も言えない僕に気付いた店長がフォローを入れてくれた。それを申し訳なく思ったが、店長の体裁も考えると嘘を貫くしかない。
 担当医と母はそれで納得してくれたようだが、父は無言のまま僕をじっと見ていた。
「明と二人にしてもらえますか?」
 その言葉に僕は子供の頃の事を思い出し、思わず顔を伏せた。
 母は父がどういうつもりかを察して抗議するが、担当医がそれを許可した事で病室は一気に静まり返った。

 二人きりになり、父は僕が顔を上げるのを黙って待っていた。
 小さい頃もそうだ。僕が悪い事をすれば必ず「人に迷惑をかけるな」と叱られた。父の平手打ちがとても痛くて、その度に泣いて、今度は「男が泣くな」とまた叱られる。
 だけど父の言う事は最もだし、痛いのも嫌で、僕は自然と迷惑は掛けないように過ごすようになっていた気がする。それが良かったのかどうかはわからないけれど、父からすれば僕は十数年ぶりにそれを破ったのだ。
 僕は覚悟を決めて顔をあげると、躊躇も容赦もなく平手打ちをおみまいされた。だけど十数年前に痛いと感じていたそれは、今では頬ではなく心の方に変わっていて、僕は頬をおさえながら、もっと違う気持ちを抱えた。
「悪いと判っていてどうしてやった」
 父は腕を組むと僕を見下ろしながら聞いた。
 僕はどう答えればいいのかわからなくて、押し黙る。
「ただの悪ふざけだったのか」
「違う!」
 父の言葉に僕は顔をあげ否定すると、儚の前ではずっと抑えてきた涙がボロボロ零れた。いつものように「男が泣くな」と言われるのが嫌で必死に堪えようとするけど止まらない。
 だけど予想に反して父は何も言わない。
 それが逆に気持ち悪く感じて、僕は涙を流しながら父を見た。
「大事な娘だったんだ……!全部思い出して、いつまでもお別れできずにいるのが嫌で、だから僕はっ!」
 それを聞いた父は、何故か僕の頭をポンポンと叩くと、一言「そういう時は泣けばいい」とだけ告げ病室をでていった。
 一人残された僕は、父の見た事のない態度に色んな気持ちが浮かんできて混乱した。店長に話を聞いたのか、それにその話を信じたのか。それとも父はずっと、僕が記憶を無くしていた時から気付いていたのか……?
「儚……っ」
 僕は布団に顔を埋めて、もういない儚を思いながら泣いた。