魔法使いの法則

 もしも時間(とき)を戻せるのなら、貴方は何を望むだろう……?
 辛い記憶を捨ててしまい、やりなおそうとするだろうか……?
 時間(とき)を戻すのが僕ならば、辛い思い出に蓋をして、全てを忘れてやり直す。
 僕にはそれしか道がない……。
...[時間]2004.09.23

 古来より羽を持つとされる『天使』と呼ばれる種族が治める『聖都市グランス』。 全ての生き物は平等と唱えるこの国に王はいない。 代わりに長い年月を得て羽が劣化していく中、 今でも羽を持つ天使を長とし、大人達で全てを平等に全てをまとめていた。
 全ての仕事を平等に分け、誰か一人が苦しむ事も、誰か一人が楽する事もない。
 しかし、生き物は必ずしも平等ではない、健康な者もいれば病弱な者もいる。 病弱な者の代わりに健康な者が働けば、そこからまた不平等が生まれる。
 そうして生まれた歪みは、かつての救世主ですら救いの手を差し伸べる事はできなかった。
 そして十二年前、古き時代からずっとそこに存在し、 全ての生き物達を見守ってきたとされる『天の塔』。 この塔の中で悲惨な出来事は起きた。
 長の実子が五歳の誕生日をむかえたその日、塔の中には断末魔にも似た悲鳴が響き渡る。 その声と混じりもう一つ、尋常とは思えない女の声がした。
「お前が居るから……!あの人は私を見てくれなくなったのよ!」
女がそう叫ぶとブチブチと何かがむしり取られる音が響く。 むしり取られているのは羽根、今日五歳になったばかりの長の子供のものだ。
「アアアァァッ!!イヤァッ……ママァッ!!」
子供は訳も判らないまま痛め付けられ、母に懇願するように泣き叫ぶ。 しかしその言葉は聞き入れてはもらえず、 母親は穢れを知らぬ純白の羽をむしり続けた。
 むしればむしるほど、子供の純白だった羽は純粋な赤に穢れていく。
「……パ……パ……ッ」
必死に助けを求めていた声は理性を失っている母親以外の耳に入る事なく途絶え、 あっという間に辺りは子供の血と純白だったはずの赤い羽根で満たされた。
 意識を失った子供の羽はもう機能を果たせぬ程無残な姿になっていた。 それどころか、おびただしいほどの血が流れ出てこのままでは命に関わる自体なのは明確だ。
 そこでやっと母親は正気を取り戻し、 子供の血や羽で汚れた己の姿と、こんな仕打ちをした己の心に蒼ざめていく。
 愛しいはずの我が子にこのような仕打ちをし、子供は自分をどう見るだろう。 それに大切な人は……母親は恐怖に震え口元をおさえた。
 しかし、そんな事とは知らず父親はこの階に足を踏み入れた。
「セレン、セレン!どこにいるんだ?今日はあの子の誕生日なのに……」
母親―セレンは急に自分の名前を呼ばれ、どうしていいかわからず後退った。 その間にも父親はドンドン近付いてくる。 そして父親が最後の角を曲がった時、辺りに広がる光景に言葉を失った。
 愛しい我が子が無残な姿で血と羽根で穢れた床の上に倒れている。 それを見た父親はすぐに子供に駆け寄った。
「だ……誰にやられたんだッ!?こんな、酷い事をッ!!」
血の中に倒れる我が子を抱きかかえるのと同時に、父親の目に震えるセレンの姿が映る。 我が子と同じ愛しい妻だ、 襲われたと思い込んでいる父親が震える彼女を心配しないはずがなかった。 血に汚れているが見た所怪我はない、父親は少しだけ安堵する。
「セレンは無事みたいだ、な……」
だが言葉はすぐ飲み込まれてしまった。 彼女の手の中にはまだ数枚、つい先ほどむしり取った子供の羽根が残っていたからだ。
「セレン……まさかその羽根……」
父親は信じられないと言うように唇をきつく噤む。 セレンは我が子にしたこの仕打ち自体に動揺していて、 彼の言葉に更に言葉を紡ぐ事ができなくなってしまった。
「お前がやったんだな!そうなんだな!?」
それを知ってか知らずか、父親はセレンに怒鳴り声をあげる。 彼女はいっそう身体を強張らせた。
「わ、私……私……」
セレンは震える自分の手を強く握りしめボロボロ泣き始める。 どうしてこんな事をしてしまったのか、彼女は戸惑っていた。
 しかし、父親の怒りはおさまる事はなく更に追い討ちをかけてしまう。
「何でこんな事をする!私の父親がやった事をお前もやるつもりか!?狂っているのか!?」
その瞬間セレンの涙は止まった。 怯えも震えも止まり、ただ呆然と時間が止まったように立ち尽くしていた。 父親は事の重大さに気付かず、我が子の名を呼びながら応急処置を施す。 そして応急処置もそこそこに父親が一息付くと、セレンが声を発した。
 言葉が聞き取れず父親は蔑むような目でセレンを見る。 彼女はその目に臆する事なく続けた。
「……この羽根はね、ここに居た汚らわしい小鳥のものなの」
そう言うとパラパラと赤く染まった羽根を落した。
「小鳥……?」
父親は先程とはまるで様子の違うセレンを訝しげに見つめるとそう聞き返した。 彼女は父親の腕の中にいる我が子を指差す。
「赤月の大事なその小鳥よ」
父親―赤月はそれを聞いて歯を軋ませる。
「やっぱりおま……!」
「貴方がいけないのよ、小鳥しか見ないから」
セレンは言葉を紡ぎながらクスクスと笑った。 しかしその頬を涙が伝う。
「……セレン?」
ここにきて赤月はようやく妻の様子が可笑しい事に気付いた。 しかしもう遅い。
「貴方がいけないのよ、老いた鳥を捨てたから……」
その言葉に赤月の脳裏に嫌な記憶がよぎる。
「捨ててなんか……!」 「貴方は歳を取らないから、老いた私を捨てたのよ!」
まるで聞く耳を持たないセレンの様子に赤月は焦りと怒りが入り混じる。
「人の話を聞けよ……!」
「貴方の話なんか聞きたくない!」
セレンはそう言い切ると赤月に背を向ける。 唯一彼女の心情がわかるのは爪が食い込む程強く握られた手だけだ。 赤月は彼女を引きとめようと手を伸ばす。
「堕天使の話なんか聞くものですか……!」
しかしその手は拒絶の言葉に阻まれ彼女に触れる事ができず終わった。
 赤月は何も言えないまま、セレンが走り去るのを黙ってみているしかなかった。 己が堕天使である事を忘れていたつもりはない、だけど数年続いた幸せに忘れていたのかもしれない。 しかし妻の言葉で忘れかけていた事実を思い出し頬に涙が伝う、声はでない。
 涙で霞む目でまだ幼い我が子を見つめる髪を撫でる。
「お前にまで……こんな思いを、させたくはなかったのに……」
そう呟くと、赤月は漆黒の翼をはためかせ塔の外へと飛び立った。
 これがこの世界の天使の習性、"平等"という言葉の認識を間違え歪んだ種族。 手が離せない、それでも愛しいはずの我が子の存在が、天使達の考える平等を崩す。

 天使は"独占欲の塊"と、そう考えられていた。

一話:旅立ち/1

 ここは『聖都市グランス』、特殊な力を持つ天使が治めていると言われる国。 均等に整った町並み、その中央に立つ平和の象徴『天の塔』は、 煌びやかな太陽の光を浴び天高く伸びている。
 今日は年に一度、高等部の二年生を対象に実施される潜在能力の検査日だった。
 天使達に古くから伝わる"天使を滅ぼす者"、『悪魔』。 十八の歳を刻む瞬間に覚醒すると言われる存在で、それがどういう条件でどういう者がという所はわからない。 ただ判っているのは、『悪魔』は桁外れな魔法を行使する魔法使いという事だけだ。
 法力しか発現しない天使だけが存在する国ならば検査の必要はなかっただろう。 しかしこの国は、敵国である『魔法国家ラーンデット』の亡命者を匿っていた。 その為徐々に人間が増え、能力検査をせざる得なかったのだ。
 この国に住まう二つの種族は争う事はなく、その検査以外平和そのものだった。 もっとも、天使と人間が愛し合う事もなかったが……。
 この日は国全体をピリピリと張り詰めた空気が流れていた。
「どうしてこんな所に……っ」
足場の悪い時計台の上に立つ少年は小さく呟き、みるみる表情は蒼ざめていく。 黒髪は風に舞い、赤い瞳を少し潤ませている。 そして強い風がふく度悲鳴をあげていた。
 インドア派特有の少し白い肌は、十七歳の男子にしては華奢な身体つきを更に引き立たせている。 すぐ下の通りでは彼を探して同じ年頃の学生達が口々に文句を漏らしていた。
「あっちはどうだった」
「こっちにはいない、そっちは」
そのやり取りの中心的存在は近くに無造作に置かれていたゴミ箱を蹴り飛ばす。
「黄泉の奴どこ行きやがった……!」
眉間に深いシワを刻み、再び学生達は散り散りになった。
 学生達がどこかへ行くのを確認し、黄泉と呼ばれた少年は時計台をゆっくりと降りる。 その表情はどこか暗く、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 今追われている事、それは魔力所持者だったという証明だ。
「やっぱり、母の子なんですね」
そう呟くと苦笑する。 だけどそれが原因で今まで普通の生活を壊されるのは辛い現実だった。
 去年の二年生も数名強制連行されている。 その前の年も、更に前の年もだ。 生きているのか死んでいるのかさえわからない。
「僕はまだ、何もしてない……捕まるわけにはいかない……」
キュッと拳を握り、辺りを見回しながらその場を離れた。
 見慣れた建物、見慣れた町並みをどこに向かうかは考えず歩いて行く。
「とりあえず……外に出る方法を探さないと……」
しかし唯一の門は常に見張りがいる。 そこを掻い潜って逃亡するのは容易ではない。
 現実を突きつけられどうしていいかわからずにいると、南西にある墓地に来ていた。 少年は目を丸くする、そして苦笑するとある墓石の前でしゃがみこみ、微笑んだ。
「母さん、ここを出なきゃいけなくなりました」
そこには少年の母『黄泉 美姫』の、少年とは違う字の『はるか』という名が刻まれた墓があった。
「僕の名前がどうして"遥"なのか、父さんしか知らないんですよね……」
返事が返ってこない事はもちろん理解している。 それでも少年―遥は悲しく微笑みながら言葉を紡いだ。
「一人は寂しいですよね、海里もいないし僕もいなくなる、だけど……」
そこまで言いかけて止めると母が父の事で夜な夜な泣いていた事を思い出し、少し顔を伏せた。
「海里と父さんを見つけられたら、ここに連れてきます、それで……許してください」
生前母が無事を確認していた弟の海里、彼は見つけられるかもしれない。 だが顔も知らない、まして生きているのかすらわからない父を探すのは無謀だ。 だけど遥は顔をあげいつも通りの笑顔を母の墓石に向けた。
「約束です、母さんを泣かせたくはないですから……」
 ここから離れなければいけない寂しさから今にも泣きそうな遥は己の頬を両手で叩く。 そして再び墓石に向かって微笑む。
「僕を、見守っててくださいね」
そう少し寂しげに言った。
 遥は話を終えて立ち上がると、聞き覚えのある声が近付いてくるのに気付いた。 振り返った先にいたのは学年次席の『千夏 継』と、その取巻きの生徒達だ。
「やっと見つけたぞ、お前なら絶対ここに来ると思ってたんだ!」
そう取巻きの一人が声をあげると、他の取巻き達も口々に罵りや蔑みの言葉をもらした。
 遥は取巻きの言葉には耳を傾けず、継だけを視界におさめて睨みつける。 しかし継は遥の視線に気付いても顔を背けるだけだった。
 取巻き達がジリジリと距離を詰めてくる、焦り出した事で遥の耳に全ての暴言が飛び込んでくる。
「律儀な奴、埋葬はここにしてもらえるよう頼んでやるよ」
先ほどまで耳を貸さなかった遥が今は一つ一つの言葉に心を揺らし怒りを覚えた。 目の前には自分の持っていないものを沢山持っている継がいたからかもしれない。
 彼も両親とは別々に暮らしているが、遥と違い両親は生きている。 会おうと思えばいつでも会える、それは遥の欲しいものだ。 なのにそれでも足りないというように取れる継の態度が気にいらなかった。
 継は顔を背けると、早く捕まえろという風に合図を出す。 そして取巻き達は一斉に武器を構える。 遥は何も持っていないし、ここ数年体育の授業はサボりがちで体力もない。 ここは逃げるしかないと、遥は一歩後退る。
「抵抗はやめろ、大切な人の墓を汚されたくはないだろ?」
しかし遥の考えを先読みした継が先手を打った。 そう言われては遥は何もできない、血の気が引き思わず立ち竦んでしまった。
「やめてください!母は関係ないでしょう!?」
それが相手の思う壺という事は十分判っていた。 しかし幼い頃から女手一つで育ててくれた母の墓石を汚されるのを、遥が耐えられるはずはなかった。
「そうとも言い切れないよなぁ?」
「大体お前が魔力所持者なのはママの所為だろ?お前が捕まるのもママの所為じゃん!」
ゲラゲラと下卑た笑いが辺りに反響する。
確かに魔法使いである事は事実だ。 しかし遥の母、美姫は該当年齢を過ぎていて検査対象外。 何より、身体が弱く大きい魔法を使う体力もない。 だから周りは母を受け入れ、そして優しくしてくれていたのだ。
 なのに今頃このような事を言われるのは我慢ならない。 遥は取巻き達を睨みつけた。
「……そんな事どうでもいいだろ、問題はお前だもんな、黄泉」
取巻き達を無視して継は話を戻した。
「(……助けたつもりですか……っ)」
遥は見下されたような哀れんだような、そんな継の目が気に食わず歯を軋ませた。
 だが取巻き達は継の言葉をきちんとは理解していない。
「とにかくだ、逃げるなら、この墓潰すぜ?」
「……ッ!」
遥はゾッと血の気が引いていくのを感じた。 目の端に墓石を映すとイヤな汗が遥の頬を伝う。
「(……母さん)」
 その様子に先ほどのやりとりを見ていたらしい取巻き達が一斉に笑い出す。
「大好きなママを泣かせたくないんだろ〜?」
自分だけならまだしも母までも侮辱され遥はキッと取巻き達を睨みつけた。
「貴方達という人は……ッ!」
しかしその表情は手も足もでない事から悔しさが滲み出る。 無駄だと判っていても言動一つ一つに一々反応してしまう。 そんな遥を面白がった取巻きの一人が再び口を開く。
「お前がそんな態度なら別に行っていいぜ?腹癒せに潰すだけだ、なあ継?」
継は一瞬戸惑った表情を見せるが、返事は何もしなかった。 だが取巻き達はお構いなしに剣を振りかざす。
「……やめてくださいっ!」
遥は思わず剣が振り下ろされる先にに立つと、目を瞑り、歯を食い縛って身構えた。
「!!はる……ッ」
誰とも判らぬその声は武器が何かにぶつかる鈍い音によって掻き消された。
 辺りがざわめく中、遥はいつまで経っても痛みを感じない事を不思議に思い、恐る恐る重い瞼を開いた。
「なんだお前……邪魔すんな!」
取巻きの言葉は遥の前に立ちふさがる背丈百八十前後の男性に向けられていた。
 男性は顔を覆い隠し、更に口元を隠すマント、そして白と黒を基調とした服を着ている。 筋肉質と言うわけでもなく、それでいて華奢でもない、引き締まった体付きだ。
 男性の手には継達が持っているような剣ではなく、短剣が握られている。
「(あんな、小さな短剣で……)」
遥は目の前の現実に呆然としていた。 お陰で取巻き達と男の会話はまるで入ってこない。
「死者を冒涜する行いを見過ごせと?」
男はまるで威嚇するように低い声で答えた。 澄んでいるのだが、どことなく孤独を感じさせる声、遥はその声に聞き覚えがあった。
「(誰でしょう……どこかで、聞き覚えがあるような……)」
しかし記憶を手繰り寄せてもこの男と思われる人物は浮かんでこない。 「(気のせい、かな……?)」
遥は思い出せない事をそう結論付けた。
 やり取りに意識を向ければ、男の言葉に取巻き達は何も言い返せず動揺している。
「……っこの墓は魔法使いの物だ!壊そうが構わないじゃないか!」
取巻きの一人が理不尽にそう言い放つ。 遥は一瞬時が止まったように硬直したが、次第に怒りが込み上げてきて飛び掛りそうになった。 しかし男の手で制され、遥はグッと抑える。
「天使の教え"死者の魂は平等"。君達の行いは天使を冒涜していると思わないか?」
生徒達は力量の差、考えの差に気付いて俯く、 しかし冒涜とまで言われて黙っていられない者もいて、声を震わせながら反論する。
「お前にそんな事言われなくてもわかってるよ!」
「……そうだそうだ!大体お前何様だよ!!」
まるで子供のようにそう文句を並べられ、男は一つ溜息をつく。 そして己の服に手を差し入れ何かを取り出しそれを取巻き達の前に突き出した。
「……じッ冗談じゃねぇぞ!」
一人がそう声をあげると、一斉に取巻き達の表情が真っ青になっていく。 遥は一体何を見たのか気になったが位置が悪くてよく見えない。
「やべえよ継……!こんなの教師に任せて行こうぜ!」
「……あぁ」
今まで何を言ってもこの場から離れなかった取巻き達がこの場を去っていく。 その様子に遥は目をみはる。 ただ継が一度立ち止まりが自分を振り返った。 その時の表情だけが遥は気になった。
「(……何なんですか)」
遥は口の端を吊り上げる。
 取巻き達が見えなくなると男は振り返り遥を見た。
「大丈夫か?」
「あ……はい、大丈夫、です」
不意に声をかけられ呂律が回らず遥は赤面する。 男はその様子に軽く笑った。
「本当、ありがとうございました」
遥はそう深々と頭を下げる。
「美姫は一人でも立派に息子を育てたのだな」
男はそういうと微笑んだ。 遥は思わず男の腕を掴む。
「母を知っているんですか!?」
「……あぁ」
まるで喰らいつくように遥が問うと、男は少し驚いた。
 遥は母の知人を幼馴染の母しか知らず目を輝かせる。 一体どういう繋がりなのだろう、自分の知らない母を知れるかもしれない。 そして父の事を何か知っているかもしれない、遥はそんな思いが先行していた。
「あの……」
「今語る時ではない」
言葉を遮られ、遥は置かれている立場を思い出す。
「そ、そうですね……」
遥は歯を食い縛る。 しかし堪えても悲しい表情を隠せないでいた。

 男は遥を連れ、墓地の近くにある小屋に身を寄せる。 中は灯りをつけても薄暗かったが背に腹はかえられなかった。
「一体何があった」
「いきなりなんです?」
この国の住人なら判らないはずがない、遥は思わずそう返す。 しかし男がジトーッと見ながら少し不機嫌になったように感じ頭を垂れた。
「わかりました、お話します……」
遥は小さい溜息を付くと、男に今日起きた出来事を話始めた。

...2008.10.08/修正02