Trente et Quarante

第三話:消失/4

 抜け殻のようにふらつきながら、ルミエールは歩いていた。
 何も考えず、それでも足は城の方に向かっている。まるでそこにしか居場所がないというように、いつの間にか町に着いていた。
 町を歩く彼女を見て、誰もが哀れみの目を向けているように感じる。
 実際それは気のせいではなかったが、今までは見てみぬふりができた。しかし今の彼女にはそれができず、思わず立ち止まった。
「ルミエール様」
 俯き気味に立ち尽くしていると、不意に名前を呼ばれルミエールは顔をあげる。
 それがソレイユではないと分かっていたからか、無理に笑おうという気すら起きなかった。
 駆け寄ってきたのは昼間久々に会ったリオネルだ。
「ソレイユ様は多忙な為、僕が代わりにお迎えにあがりました」
 ルミエールは彼の顔を見上げる。
 リオネルはいつも通り涼しげな顔をしていたが、彼女があまりに酷い顔をして見えたのか、少し表情を曇らせた。
「そう……ありがとう」
 わざわざ迎えに来た彼にこれ以上気を遣わせたくない。そう思ったルミエールは一応笑顔を作ってみる。上手く笑えてはいないが、彼女にはこれが精一杯だった。
「ノワール様に、お会いしたのですね」
 リオネルはそう口にした。
 ルミエールは目を丸くする。
「……ソレイユに聞いたの?」
 それとももう広まっているのだろうか、ルミエールは苦笑するように首を傾げる。
 リオネルは彼女の言葉を肯定すると、顔を伏せた。
「貴女に、お話しておきたい事があります……」
 ルミエールは少し戸惑う。今の自分はまともに話を聞ける状態ではない、それは他人の目にも明らかだ。
 しかし、無口なリオネルが主人でもないルミエールに話しておきたい事があるなど、普通に考えたら珍しい。恐らく黒の国に関係があるのだろう。
「何?」
 ルミエールは覚悟を決めて聞いた。
 リオネルは辺りを見回し、誰もいない事を確認した。
 そして少し傍に寄ると、出来る限り小さく言葉を発した。
「陛下は、貴女をたぶらかしたと、怒りを露にしておられました……」
 ルミエールは息を呑む。気付かれたというのなら予想のできていた事だ。
 しかし、その程度の理由で黒の王を殺害するというのか、そのような事が原因で戦争など馬鹿げている。
 リオネルはルミエールの気持ちを察したのか、残念そうに目を伏せる。
「……それを理由に、陛下は黒の王を殺害したのです」
 ルミエールは両手で顔を覆う。
 父がそういう人物なのはわかっていたはずだった。それなのに、ソレイユの忠告を無視して自分のわがままを通した。ノワールに敵だと言われるのは当然だと、ルミエールはそう思った。
「光の花が消えたのは、私の所為……っ」
 ルミエールは声を殺して泣いた。

...2012.06.05