Trente et Quarante

第三話:消失/1

 ノワールと別れて一ヶ月ほど経ち、初めての満月の日が来た。
 自分の部屋にいたルミエールは、どこか落ち着かぬ様子で黒の国と湖に想いを馳せる。
 一ヶ月前、黒の王が急死し、何の準備もできないまま第一王子ブランが即位した。赤の国にはそれ以上の状況は伝わってこなかったが、ノワールの心中を思うとルミエールは心穏やかではいられなかった。
「ソレイユ、気分転換に町に行ってはダメ?」
 あまりに憂鬱だったルミエールは、少し甘えたような口調で言う。
 彼女の部屋に様子を伺いに来ていたソレイユは頭を抱える。
「……、性質の悪いお姫様もいたものですね」
 甘えられるのが嫌なわけではない。姉を溺愛している彼としては、願いは何としても叶えたい、むしろ叶えようとする。
 しかし少し気にかかる事がある彼は躊躇した。
「そうよね、黒の国の一件で赤の国も忙しいみたいだものね」
 ルミエールは外出を却下されたと感じ、残念そうに言った。
「いえ、少しだけなら……でも俺も同行します」
 ソレイユは少し複雑な表情を浮かべながらそう告げると、彼女に手を差し伸べる。
 ルミエールは数回瞬きをする。そして外出許可がおりた事に目を輝かせた。
「ありがとうソレイユ」
 微笑みを浮かべソレイユの差し伸べた手に、己の手を重ねる。
 ソレイユは少し呆れたような表情を浮かべたが、彼女の表情が久々に晴れた事に胸を撫で下ろした。

 部屋をでると、ソレイユを待っていたリオネルが一礼した。
 ルミエールはあまりソレイユと共にいないその執事がいる事に驚き、咄嗟にお辞儀し返していた。
 顔から火がでるほど恥ずかしい、彼女は思わず顔を伏せた。
 リオネルはクスリと笑う。
「お出かけですか」
「ああ、リオネルはいつも通り頼む」
 しかしソレイユは何も気にする様子はない。
「……わかりました」
 リオネルは深々と二人にお辞儀すると踵を返す。
 一瞬、ルミエールはリオネルと目が合った。その目にノワールやソレイユとはまた別の温かさを感じて、ルミエールは少し優しい気持ちになった。
「リオネルさんって、不思議ね、ソレイユ」
 ソレイユは特に何も返す事はない。だけど何故か満足そうに微笑んだ。

...2012.05.29