ノワールと別れて一ヶ月ほど経ち、初めての満月の日が来た。
自分の部屋にいたルミエールは、どこか落ち着かぬ様子で黒の国と湖に想いを馳せる。
一ヶ月前、黒の王が急死し、何の準備もできないまま第一王子ブランが即位した。赤の国にはそれ以上の状況は伝わってこなかったが、ノワールの心中を思うとルミエールは心穏やかではいられなかった。
「ソレイユ、気分転換に町に行ってはダメ?」
あまりに憂鬱だったルミエールは、少し甘えたような口調で言う。
彼女の部屋に様子を伺いに来ていたソレイユは頭を抱える。
「……、性質の悪いお姫様もいたものですね」
甘えられるのが嫌なわけではない。姉を溺愛している彼としては、願いは何としても叶えたい、むしろ叶えようとする。
しかし少し気にかかる事がある彼は躊躇した。
「そうよね、黒の国の一件で赤の国も忙しいみたいだものね」
ルミエールは外出を却下されたと感じ、残念そうに言った。
「いえ、少しだけなら……でも俺も同行します」
ソレイユは少し複雑な表情を浮かべながらそう告げると、彼女に手を差し伸べる。
ルミエールは数回瞬きをする。そして外出許可がおりた事に目を輝かせた。
「ありがとうソレイユ」
微笑みを浮かべソレイユの差し伸べた手に、己の手を重ねる。
ソレイユは少し呆れたような表情を浮かべたが、彼女の表情が久々に晴れた事に胸を撫で下ろした。
部屋をでると、ソレイユを待っていたリオネルが一礼した。
ルミエールはあまりソレイユと共にいないその執事がいる事に驚き、咄嗟にお辞儀し返していた。
顔から火がでるほど恥ずかしい、彼女は思わず顔を伏せた。
リオネルはクスリと笑う。
「お出かけですか」
「ああ、リオネルはいつも通り頼む」
しかしソレイユは何も気にする様子はない。
「……わかりました」
リオネルは深々と二人にお辞儀すると踵を返す。
一瞬、ルミエールはリオネルと目が合った。その目にノワールやソレイユとはまた別の温かさを感じて、ルミエールは少し優しい気持ちになった。
「リオネルさんって、不思議ね、ソレイユ」
ソレイユは特に何も返す事はない。だけど何故か満足そうに微笑んだ。
...2012.05.29