Trente et Quarante

第一話:光の花/4

 城下町を抜けると、目の前に森が広がった。幼い頃には広大な森に感じたそれが、今となってはそれほどの規模でもない。湖までも今ではたいした距離ではなくなっていた。
 木々の間を進んで広い空間にでると、そこにある美しい湖に心奪われる。
「素敵……」
 何度見ても飽きないという風に彼女は呟く。
「ええ、何度見ても素敵です」
 不意に声をかけられルミエールは声の方向を見た。
「ノワール様は今日もお早いのね、お待たせしてしまいました?」
 困ったように笑みを浮かべながら聞く。
「いえ大丈夫ですよ。それに、ルミエール様は抜け出すのも容易ではないのでしょう?」
 ノワールの問いにルミエールは首を傾げる。
「赤の王と王子は姫を溺愛していると聞きますよ、監視も厳しいのでしょう?」
 ノワールは出会った日のソレイユを思い返しながら続けた。
 ルミエールは黒の国にまで知られている事に恥ずかしさを覚え、頬を染める。
「父は確かに厳しいですが、ソレイユは私の嫌がる事はしませんから」
「姉弟の仲が良いのですね、素敵な事です」
 ノワールはそう言って微笑むと彼女に手を差し伸べる。
 ルミエールは更に頬を赤くして照れるが、自然とその手に自分の手を重ねた。
「ノワール様も、兄のブラン様とは仲が良いのでしょう?」
「ええ、まあ」
 ノワールはその手を優しく握り湖の傍へ彼女をエスコートした。
 二人は空に輝く月を見上げ、満月になるのを待つ。
「兄上は身体が弱いですから、少しでも支えになりたいのです」
 そう照れたように微笑み「そろそろですね……」と呟いた。
 瞬間、水面に映る星々の輝きが増す。満月の夜に降る『光の花』が湖一体を光で満たし幻想的で美しい光景を作り出した。
 どれだけ見ても飽きる事のないその光景に、ルミエールは顔を綻ばせる。
「光の花は仲良しの証……」
 ノワールはルミエールの言葉に耳を傾ける。
「私達のように、国同士も仲良しになれたら良いのに……」
 ルミエールはそう言ってノワールに微笑んで見せた。
「……ええ」
 ノワールは困ったように微笑み返すと、幻想的なその光景に視線を戻した。

...2012.05.08