Genocide

 『ここで起きた事件の真相、僕の事、そして君の父親の事、全部調べて……』
彼の言葉が頭を過ぎって私は中々寝付けなった。 "ここで起きた事件"というのは、千草先生の言っていた"昔人が殺された事"なのだろう。 だけど、彼の事、そして私の父の事というのがわからない。 父は小さい頃に死んでしまって、面影しか覚えていない。 それでも大好きだった父が、彼が罪を犯す事と何か関係があるのかと考えると、不安で仕方なかった。 そんな事をぐるぐると考えていると、目覚まし時計が鳴り響いて、一睡もできないまま朝を迎えた事に気付いた。
 身支度を整えて居間に行けば、今日も通常勤務なのか母が朝食を用意していた。 一瞬、父の事を聞こうかと思ったが、毎日疲れている母に中々聞く事はできなかった。
「るん、やっぱり体調悪いんじゃない?大丈夫?」
トーストをかじりながら母は私に問い掛けた。 精一杯の笑顔で大丈夫と答えれば、少し疑い深い目で私を見ながらコーヒーを口に運ぶ。
「お母さんこそ、最近どうなの?」
「母さんはいつも通りよ?一昔前に比べるとこの辺り本当平和になったわね」
母はそう言うとニコっと笑った。 内心平和じゃないと思う、だけどそれを私が言えるはずはなかった。 母の勤め先は警察署の刑事部捜査第一課、強盗や誘拐、そして殺人等の捜査に関する仕事。 彼が、注意しなければいけない人。 私はこうしている間にも母を裏切り続けている。 母ならきっと自分の命を投げ出せるはず、それが私を悲しませる事だと判っていても。 だけど私はできない、生きている事で私を怒るかもしれない、軽蔑するかもしれない。 でも悲しませたくない、誰かを恨ませたくない、自分自身もまだ死にたくない。 いっそ、母は私を恨めばいいとさえ思えてきた。
『のるを巻き込むつもりは、なかったんだ……ごめん……』
この言葉はきっと、私から母に漏れる事を恐れてたからだ。 それ以上の意味なんてない、私はそう思い込もうと必死だった。 私が考えている事が彼に伝わったなんて、そんな事あるはずないのだから……。
 結局母には何も言えずに、足取りが重いまま学校に向かった。 唯一地元にある、自分の頭の出来とは合っていない高校、 歩きで通えて経済的だし、勉強の事を二の次にすればバイトもできる。 そう考えて、彼の助けを借りてこの学校に進学したが、あれは間違いだったのかもしれない。 私はそう思わずにはいられなかった。
 教室には夜観之君一人だけしかいなかった。 足を机の上で交差し、腕を組んでボーッとしているようだ。
「おはよう、夜観之君」
私が声をかけると、顔をこっちに向けた。 そして私の姿を確認すると立ち上がり、傍に寄ってきたと思うといきなり肩を抱いた。 私が驚いて真赤になりながら凝視すると、夜観之君は自分の口元に指を立て、静かにっという風に合図した。
「日曜の話、あいつ、クラスの奴がどこに住んでるか調べろって……」
耳元で囁くように夜観之君は言うと私に紙を差し出した。 紙にはクラスメイトの名前の書かれた表が書かれていて、 その横には寮の部屋番号から階層まで、事細かく書かれていた。 寮に住んでいないクラスメイトの所には、代わりに住所が書かれている。 気になったのは佐々川君や窪谷さん、そして彼や夜観之君を含めた十七人の名前に蛍光ペンがひかれていた事だ。 この十七人に何らか繋がりがあると考えるしかない。 彼は一体何をするつもりなのだろう、疑問は増えていく一方だった。
「それで、どうしたの……?」
「……さっきこれと同じ紙を渡した、そしたら『体調不良』って伝えろだと」
そういうと夜観之君は肩を放し、「ったく、わけわかんね」と続け後頭をガリガリとかいた。 だけど表情はとても悔しそうで、夜観之君が罪悪感を抱いている事がすごく伝わってくる。 ポジションは私と正反対、だけど同じ秘密を共有する私達は、まったく同じ彼の駒。 だから私も夜観之君に言わなければと、そう思った。
「私の話も……聞いてくれる?」
「あ?」
夜観之君はぶっきらぼうにそう言うと真っ直ぐに私を見た。
「あの場所で起きた事件の真相と律君の事、あと私のお父さんの事を調べろって……」
私は歯切れ悪く言葉を切った。 だけど夜観之君はそれはまったく気にする事もなく、腕を組み目を細め天上の方を見た。 放心したように見つめている彼とは違い、 首を傾げたり髪の毛を指に絡めて弄ったりしながら何かを考えているようだ。
「朝霧の事とあの家の事は少しなら、でもお前の親父の事はな……」
そこまで言うと唸りながら私の顔を凝視していた。
「お前の親父の仕事は?名前と年齢、あと……特徴もあるといい」
勢いよく質問をされ、私は目をパチクリさせた。 この間も思った事だが、夜観之君が捲くし立てるように喋っているのも予想外だった。
「夜観之君って、思っていたより喋るんだね……」
私は思わず意味のわからない事を口走った。
「は?」
夜観之君は変な声をあげると口をポカンとあけた。 私はハッとして、慌てながら手をバタバタと振る。
「ご、ごめん!話の腰折っちゃった……!!」
私の慌てぶりが面白かったのか、夜観之君は頭を抱えると小さく笑い出した。 一応堪えようとしているのは伝わってくるが、どうやらツボにはまってしまったようだ。 これも今までの印象からは想像が付かなくて不思議な感じがする。 だけどそんな夜観之君のお陰で、私は久々に笑う事ができた。

ポジションは私と正反対、だけど同じ秘密を共有する私達は、まったく同じ彼の駒。

04.同じで真逆な人

 ホームルームと同時に千草先生は教室へやってきた。 彼がいない事に気付くと怪訝な顔をして、来る事のない佐々川君や窪谷さんの机を睨みつけた後、私を見る。 その目は私が彼に何かしたのではないかという風に疑う目だ。 私は目をそらす事もできず、情けない顔をして怯えているしかない。 それに一番後ろの関の夜観之君は気付いたらしい、
「朝霧、具合悪いのでよくなったら来ると言ってました」
まるで助け舟を出すように、そう先生に言った。 私が軽く振り返ると夜観之君は頬杖をついて気だるそうにしていたが、私に気付いて顎を上げる。 それは前向いてろっと言うような仕草で、私はそれに軽く微笑んで見せて前を向いた。
 今日も佐々川君と窪谷さんの二人がいない事には誰も触れなかった。 私達が入学してからの二年間、学校から逃げ出す生徒が結構いた。 少子化の問題と、この事実が原因で学年毎にクラスが一つしかない現状だ。 だから二人も逃げ出したと思われているのだろう、 そして、そのうち連絡をよこすとも……。
 授業は相変わらず集中できずにいた。 昨日と違い、心の整理はつけたつもりだった、だからこれは昨日眠れなかった所為だろう。 妙に身体が重くて、頭はフラフラとしてしまう、それを左手で支えながら授業を受ける。 三時間目を終えると、次は体育だからか教室移動で人がドンドン少なくなっていく。 だけど私は動くに動けなくて、立ち上がる事もできずに席に座っていた。 そんな私を見かねたのか、夜観之君が私の席へ寄ってきた。
「坂滝さん……あの、大丈夫?」
だけど私に声をかけたのは斉藤 直さんだった。 普段は大人しくて控えめな子、時折私を見ているのには気付いていたけど、 まさか私を心配して声をかけてくれるとは思わなくて、何だか嬉しい。 夜観之君も傍で私を気にかけてくれている、私は幸せに者だ。
「大丈夫、昨日眠れなかっただけ……」
私は二人を見上げて苦笑するとそう答えた。 だけど自分の視線があらぬ方向に行くのを感じて、あれ……っと思う。 椅子から転げ落ち、意識が朦朧としていた。 二人共驚いて私を呼んでいる、だけど返事を返す事もできない。 眠いだけでこうなるだろうか、毒の効力なのかな。 それとも、自分でも気付かないうちに、相当疲れていたのだろうか。 私は今にも意識を手放しそうになりながら遠くなる声を聞いていた。 身体を揺すられても何も反応できず、目を開いているのすらやっと状況だ。 そんな時、扉が開かれる音が聞こえて、二人がそっちに注目した。
「お前……!」
夜観之君が驚きの声をあげている。 だけど音の主はそれを無視して私を抱き起こした。
「……のる、大丈夫?」
彼の声だ。 薄ら見える視界には、彼が私の顔を覗き込んで、心配そうに声をかける姿。 意識が薄れてる所為か恐怖を感じない、むしろ何故か安心感さえあった。 以前と同じ優しい彼に、幻でも見ているような気分に陥った。
「律、君……」
そして私はその優しい彼に縋りついた。 彼はそんな私の背中を優しく撫でてくれる、 だからそんな一時の幻に、意識を手放して身を委ねた。
「斉藤さん、彼女次の体育でられそうにないから、先に行った方がいいよ」
彼が笑顔でそう声をかけた。 斉藤さんは、でも……っと言いかけて止めた。
「じゃあ、坂滝さんの事、お願いします……」
「うん、体調が悪いから"保健室に行った"って伝えといて」
斉藤さんは軽くお辞儀をすると、教室をでていった。 今度は身体が宙に浮いて、横抱きされている。 私は今だ幻の中の彼に縋っていた。 だけど、現実で縋り付いているのも、紛れもなく彼自身。
「お前……今でも……」
夜観之君は彼の優しさを忘れられない私を、ただ傍らで見つめていた。

 学校のチャイムの音が聞こえてきて、私は薄らと目をあけた。 考え事のし過ぎで眠れなかったのに、睡眠不足で保健室に運ばれてしまうなんて、情けない。 起き上がらずそのままの状態で傍らを見る、すると椅子に腰掛けた彼が前屈みになって眠っていた。 鞄を肘の辺りで引っ掛かっていて、肩にかけたまま寝てしまったようだった。 何か見られたくないものでも入っているのだろうか、私はそんな事を考えていた。
 起き上がって彼の顔を覗けば、疲れているのかぐっすりと眠っている。 昨日あの家で会った時は月明かりの所為かと思ったが、やはり顔色もよくない。 心なしか表情も苦しそうな悲しそうなそんな顔をしている。
「……やめて……もう、見たく、ない」
彼はそう寝言を言うとかすかに涙を浮かべた。 私は驚いて彼に手をのばしそうになって、その自分の行動にも驚いて、空いてる手でその手首を掴んだ。
「もう、嫌だ……誰か誰かっ……」
彼は前屈みのまま、手で顔を覆った。 眠っているとは思えない程に寝言と行動がシンクロしているのが判る。 ガタガタと肩を震わして、子供のようにボロボロ泣いて……。 何をやめて欲しいのだろう、何を見たくないのだろう、何が嫌で、誰に助けを求めているのだろう。
「僕を……止めて……」
私は思わず彼の頭を抱きしめた、昨日と同じだ。 悪行のあとの嘆き、私はそんな彼を放ってはおけない。 ずっと冷たく笑っていてくれたら良かったのに、彼は私に「きらい」の三文字を与えてはくれない。
「のる……この体勢、苦しい」
目を覚ましたのか彼はそうボソっと呟いた。 私が慌てて手を離すと、 彼は自分の涙に気付いたのか、目を手の甲でゴシゴシと擦る。 そして見えた彼の目は、なんだか赤くなっているように感じた。
 保健室の先生は今いなかった。 先生はご丁寧に鍵も閉めていったらしい、確かに二人共寝ていていたら無用心だろう。 それにこの学校の生徒は授業に遅れる事を恐れて、保健室の利用者も少ない。 だから鍵をかけても問題もないのだろう、だけど先生が戻って来なければ外にもでれない。 本調子ではないとはいえ、いつまでもここにいるのは正直きつい。 だけど、先生の帰りを待つしか選択肢はなかった。
「ねえ……聞いていい?」
彼は乱れた髪を弄りながら言った。 正直聞きたくない、何を言われるのか見当がつかなくて怖い。
「……何?」
だけど私はそう返すしかなかった。 私と彼は対等じゃないから……。
「倒れたの、寝不足以外に原因があったりしない……?」
彼は唐突にそんな事を聞いた。 寝不足以外でなんて、彼に飲まされた毒以外考えられないが、それは違うのだろうか……。
「寝不足以外なんて、毒しか考えられないよ……」
私は顔を伏せた。彼はそれ以上は何も言わず、……そうだね、と話を切った。 だけど何か戸惑っているような、そんな表情をしていた。 でもあれだけの出来事を目の当たりにして、正常に過ごせる方が不思議だと思う。 だから私はその事を考えるのをやめにした。
 しばらくの沈黙、彼は結論はでないと思ったのか、次の話にうつした。
「のるも、僕が最低だって思うでしょ」
彼のやっている事は酷いし、最低だ。 殺人ゲーム、敵にヒントを与える駒の私と、 彼が敵を欺く為の駒の夜観之君。 そして被害にあうクラスメイトは、彼にとって先生の駒……。 だけど、その言い回しに引っ掛かるものがあって、何も返せなかった。 『僕が』って一体何だろう、さっきの寝言もそうだ。 彼を支配する何かがあるというのだろうか、私には判らない。
「先生の所為で、僕は偽りだらけだ……」
視線を落としたまま、彼は小さく呟いた。 私はずっと彼の言う先生は千草先生の事だと思っていたけど、 もしかして、もっと違う誰か……? 私には辿り付くことの出来ない誰かなんじゃないかと、そう思った。
「君に出会って、好きになって……でも、その感情まで偽りだったら僕は……っ」
苦しそうに震える、眠っていた時の彼と同じだ。 感情が偽りってどういう意味なのだろう。
「偽りって何?律君、その先生に、何かされたの?だからあんな事……」
私はそう彼の肩を揺さぶりながら疑問を投げかけた。 被害者からすれば、彼のした事にどんな理由があろうと許せるはずがない、 だけど私は可笑しい、普通じゃない、だから何か事情があるはずだと、彼を嫌いになる事ができないんだ。 好きだから、彼は本当はそんな事をしたいと思っていないと、信じていたいんだ。
「……昨日言った事を調べれば、自然と辿り付くよ」
彼は自分の口から答えを言おうとはしなかった。 でも調べるように言うのは、知って欲しい、それか知らなくてはいけないとそう思っているのだと、 私はそう解釈した。
「私、今でも律君が好きだよ……だから、これ以上酷い事をさせたくない、止めたいの」
そう私は正直な気持ちを言った。 それを聞いた彼は目を見開いて、視線を私に向ける。 誰が聞いてもどうかしている、自分でもそう思う。 でも彼と出会って四年、短いようで長いその期間が、簡単に心変わりを許しはしない。 だけど、それを聞いた彼は目を見開いたまま、青ざめていた。 どうかしている私に驚いたとか、そういう訳でもなく、 何かへの申し訳なさ、罪悪感、そう言った表情をしているように感じる。 苦しそうに、口をゆっくりと動かしているのに気付いて、私は耳を傾けた。
「……でも、のるの好きな僕も、偽りかもしれないっ」
それを言われた私は、心が張り裂けそうなそんな気持ちになった。 彼の好きな所なら沢山あるのに、それが全部偽りかもしれない。 そんな事悲しすぎるし、苦しすぎる。
 しばらくして、保健室の先生が戻ってきた時、またチャイムが鳴り響いた。 窓の外を見れば下校していく生徒達、校庭には部活動に励む人達の声が響く、 寝ているうちに、今日の授業は終わってしまった。
 「僕、来た意味なかったね」
帰り道、彼はそう苦笑した。 今日は休んだ事が広まっていたのか校門で待ち伏せてる人はいなかったが、 前は着替えていたのに、最近では一目をはばからない、手を繋いで歩いてる。 彼のやった事が知れ渡れば、きっと世間は私を異常な女と思うだろう。 そして母の事を考えればこんな事ありえない、思わず私は手を放そうとした。 だけど彼はそれを許さず、強く手を握った。 私が戸惑って顔を覗くと、彼は小さく耳打ちした。
「のるを悪者にはしないから……、だから……」
そう呟く彼を拒絶できなくて、仕方なくもう一度手を掴んだ。 もう一度彼の顔を覗くと、この間までの微笑みを向けてくれた。

 そして翌日、ホームルームの時に私は何かに気付いた。
高水 実依さんが来ていない。 少し元気すぎる所があって、周りには煙たがられていたのは知っている。 でもいつも元気に登校してきていた高水さんが……、悪い予感が脳裏を過ぎった。 夜観之君も私と同じ事を気にかけていたみたいで、私達の様子に気付いた彼がまた屋上に呼び出した。
 放課後屋上に集まった私達を、昨日の放課後とは違って冷たく笑う彼が出迎えた。 彼は二重人格なのだろうか、いや、何かが違う。 私は俯いて耐えるしかなかった。 夜観之君は私を複雑そうに見つめていたが、すぐ彼に向き直った。
「君達が気になるのって高水の事でしょ?」
彼は笑顔でそう言い放った。 確かにその通りだが、悪びれた様子もなく言われて私達は戸惑うばかりだ。
「また……殺したの……」
身体が震える、答えを聞きたくない。 彼はククク・・・と笑う。
「どうでしょう?七瀬に聞けばいいよ」
私は横に立っている夜観之君を見上げた。 そして目が合うと夜観之君はすぐ視線を外す。
「どこまでなら、話してもいいんだ……」
夜観之君は睨みつけるように彼を見ながら挑戦的な表情で聞いた。
「君の予測まで」
彼が嘲笑うようにそう返すと、夜観之君は嫌気がさしたように舌打ちをした。
 今日は水曜日、私はバイトのある日だ。 彼は冷たく笑いながら先に帰ってしまったから、必然的に夜観之君と帰りの道のりを歩いていた。 眉間にシワを寄せたまま、だんまりとしていて、 私は夜観之君の機嫌を伺うようにキョロキョロとしていた。
「……さっきの話だけど」
「え、何!?って、はう!!」
私は驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた。 そしてそのまま電柱にぶつかって頭を抑えながらしゃがみこむ。 夜観之君が唖然としてこちらを見ていて、すごく恥かしい。
「大丈夫かのろ子」
夜観之君は私を見下ろしながらそう言って手を差し伸べてくれた。
「うん、ちょっと痛いけど……」
私はその手を取ると情けない声でそう答える。 また話の腰を折っちゃったな・・・と思いながら、また歩き出す。
「あくまで俺の予測だけど、多分高水は、生きてると思う……」
その言葉に驚いた。 もしそうなら、彼は何の為に屋上に呼び出したのだろう。 そもそも、呼び出しておいて事実を明かす事もなかった。
「どうして、そう思うの?」
私がそう質問をすると、夜観之君は少し顔を伏せた。
「高水は関係者じゃないから……、昨日渡した紙見てみろ」
夜観之君はそう言うと、寮こっちだから、と後ろは振り返らず行ってしまった。 関係者とは一体なんだろう、夜観之君は一体彼の何を知っているんだろう。 夜観之君の後ろ姿を見送りながら、昨日の紙を見て見ると、 私や高水さんには蛍光ペンが引かれていない。
「……関係者って、チェックされてる人達?」
だけど青い空は容赦なく赤く染まり、私は急いでバイト先へ向かった。

...2008.04.21